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この映画を見終わった後には「今の自分の気持ちは何という感情として表せるのだろうか」という素朴な気持ちが沸き上がってきます。
見終わった後に、今の自分は感動してるのか、困惑しているのか、興奮しているのか、悲しんでいるのか分からないんです。
今回は、そんな映画「セッション」(原題「Whiplash」)の”あらすじ”と”評価“を自分なりに解説していきます。前半部分はネタバレなしで記載していますので安心してください。
映画あらすじ
優秀ながら周囲に埋もれていたドラマーの主人公が、大学の鬼教官の元で育つものの、あるきっかけで音楽を辞め、その後に鬼教官と再会するまでを描いた映画です。
その中でも、ラスト9分19秒は映画史に残るぐらいに印象的なシーンです。このラストシーンがあまりにも衝撃すぎて、そのスピード感から自分の感情がコントロール不能になってしまうんです。
物語の大きな流れ
地域で随一の音楽大学に通う主人公(ニーマン)は、学内でも2番目のジャズバンドの控えドラマーです。しかし、必死に夜遅くまで練習をする彼の姿を見かけた教授で指揮者のフレッチャーは、彼を1軍のバンドに招待します。
その1軍ジャズバンドで待ち受けていたのは、フレッチャーによる執拗な演奏へのダメ出し・人格否定・嫌がらせ・辱しめの数々でした。その対象はニーマンだけでなく、全ての学生に対して執拗に行われます。
あるコンクールで楽譜を間接的に無くしてしまったドラムの主奏者に代わってドラムを演奏することになったニーマンがそのまま主奏者となり、交通事故で無くなった教え子を思いを馳せるフレッチャーの意外な一面も見え、物語はハッピーに進むかと思われました。
しかし、後日行われたコンクールで、ニーマンがトラブルに巻き込まれ、遅刻してしまうと、無情にもフレッチャーは別の奏者で演奏すると言い出します。ギリギリで間に合うかと思われたニーマンは忘れたスティックを車で取りに帰る途中で交通事故にあってしまいます。
血を流しながら車から這い出たニーマンは、スティックを持って何とか会場にたどり着き、開演ギリギリでドラムの前に座り、演奏するものの指は使い物にならず、散々な演奏を披露。フレッチャーはそれに対して冷たく接し、ニーマンは激怒の後フレッチャーに殴りかかります。
当然のことながらこの事件を受けてニーマンは退学処分を受けます。しかし、先日交通事故で無くなったとフレッチャーが言っていた学生は、実はフレッチャーの指導が原因で追い詰められ自殺していて、親と弁護士はニーマンにフレッチャーを告発することを提案します。
音楽を辞め、別の仕事をして生活していたニーマンですが、街角でストリートドラムの音を聴き、感傷に浸っていたところ、ジャズバーで「フレッチャー」の名前を見つけます。入ってみると楽しそうにピアノを演奏するフレッチャーの演奏に見入っている自分がいたのです。
演奏後にフレッチャーと目が合うと、逃げる様にして帰ろうとするニーマンにフレッチャーは声を掛けます。
昔話を交えながら、自分の教育理念を語るフレッチャーと久しぶりに話をした後に「実は近いうちにバンドのコンサートがあって、良いドラム奏者が不足している」とドラム演奏を依頼するような言葉をフレッチャーはニーマンに投げかけます。
フレッチャーに認められたような感覚で誘われたコンサートに出場したニーマンであったが…。
映画の評価
コンサートに出場した後のラストシーンが素晴らしいこの作品で、ネタバレなしの段階で評価をすることは難しいのですが、今作は音楽というテーマを通して、狂気の様な人間の隠された感情を引き出しているような作品だと思います。
特に綿密に丁寧に描かれているなと思ったのが、主人公であるニーマンの人間性についてです。先ほどの大きな流れの中では省略しましたが、ニーマンはニコルという女性に恋して付き合って、その後に分かれるというイベントを経験します。
最初にこのニコルが出てきたときには重要人物だと思って「どうせ恋愛が絡んできてピンチの時には彼女が泣きながら駆けつけるんでしょ?」と早とちりをしたんですが、全然違いました。
見終わって思ったのは、このニコルという女の子は、ニーマンの人間性を視聴者に伝えるために出てきた人なんだという事で、そんなニーマンから見たフレッチャー自身とその関係性について描かれているのが本作品だと理解しています。
そして、フレッチャーが行ったような鬼の様なシゴキというか指導は、確かに存在すると思いますし、私としては教える側と教わる側の両方の気持ちが分かってしまうので、ある意味俯瞰したような感覚で映画を観ていました。
個人的には、やっぱり学生を追い込むような指導方針は良く無いと思いますが、膨大な練習時間は学生だけでなく教員もそれに付き合っていて、練習以外の業務をこなした上で、それでも学生の為にと思って実施しているという苦労・努力の部分が感じられます。
フレッチャーの場合は最高の演奏家を育てるという己のエゴみたいなものが大きいので、ある種で”学生の為”では無いのかもしれませんが、その努力と打ち込んだ時間は莫大なものでしょう。
一方で、学生は、自分で求めてきた所だからこそ、学んで自分のモノにしたいという気持ちと、それでも辛さが上回っていって自分の中で気持ちが葛藤していって、どうしようもないからその気持ちを自分と教員にぶつけていくという感じですね。
こういった気持ちの分かる方にとっては見るのが心苦しくなるようなシーンもあると思いますが、最後へのストロークを強めてくれるので、もやもやしながらでも見続けると、途中でやめるよりも心が整理されると思います。
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ラストシーンについて
フレッチャーの復讐
ラストシーンでは、フレッチャーの行き過ぎた指導について密告したのはニーマンだと確信を持った上で、フレッチャーはニーマンをコンサートに呼び、伝えた曲とは全く異なった新曲をいきなり演奏させることで、舞台上でニーマンに恥をかかせる為の復讐をしています。
フレッチャーについてのニーマンの密告は、劇中では明確に描かれていませんが、フレッチャーとジャズバーで再び出会った時のニーマンの反応からニーマンが密告した事に気づけます。恐らくフレッチャーもそこでニーマンが密告者であることを確信したのでしょう。
その反応とは、フレッチャーが、自殺したショーン・ケイシーの名前を密告者の引き合いに出した時に、ニーマンが何の難色も示さずに、むしろ安堵の表情を浮かべたことです。
「ショーン・ケイシーと同期の生徒だと思うが-親が私のことを密告した」
まず、ショーン・ケイシーが自殺だと知っていないければ、密告者の引き合いに出されること自体が引っかかります。「彼は交通事故のはずなのになぜ彼の名前が出てくるんだ?」と。
そしてショーン・ケイシーと同学年ではないニーマンは自分が密告者だとバレていないと安堵し、フレッチャーの自虐の様なセリフに対して笑顔を浮かべて応対しています。
これらの点から、ニーマンが密告したことを確信し、あえてコンサートに呼んだと思われます。
ニーマンの復讐
ニーマンはスカウトが多数見ている舞台上で恥をかいて、舞台袖に引っ込みます。そして、会場に来ていた父親に抱きしめられ「さあ帰ろう」と言われるワケです。
しかし、ここでニーマンは何かを思ったかのようにして、再び舞台に舞い戻ります。恐らく、ジャズバーでフレッチャーが語った下記の言葉を思い出したんだと思います。
①「Good job」が英語で最も恐ろしい言葉である
②失敗した後に決して挫折しなかったチャーリー・パーカー
父親が自分を守ってくれているという事が、自分の成長を阻むような「上出来だ(Good job)」という感覚に思えたという点と、「挫折してたまるか」という感情がニーマンの中に入り混じっていたのではないでしょうか。
舞台に戻ったニーマンは「キャラバン」を勝手に演奏し始め、フレッチャーから主導権を奪い、自分のドラムテクニックを見せつけるようにします。
演奏が開始された直後には、ニーマンに対して敵意をむき出しにしたフレッチャーですが、次第にドラムの出来の良い演奏の心地よさに浸って、ニーマンを認める様に指揮にも気合が入ってきます。
ニーマン・フレッチャー共に笑顔の様なモノが垣間見える、稀に見る奇跡の様な出来の演奏が最高潮で終わりを迎えようとしたとき、ニーマンは演奏を止めず、ひたすらにドラムソロを続けます。
見かねたフレッチャーがニーマンに問いかけると一言「Up to you」と言うんですね。日本語だと「合図する」と吹き替えも字幕も表示されていますけれど、私としてはそんな一方的な指示のような感じではない気がします。
基本的に Up to you は「あなたに任せる」という意味合いが強く、つまり、最後のドラムソロからの締めをフレッチャーに任せているんだと私は感じました。
大嫌いなフレッチャーではあるけれども、音楽に対する強い気持ちは尊敬していて、そんなフレッチャーになら最後のソロからの終わりをまとめ上げてくれると信頼して任せたのではないかと思っています。
「合図する」とニーマンが言う事で完全に立場が逆転したと解釈する人もいるかもしれませんが、密告する時にも強く葛藤を見せていた点やフレッチャーの誘いに乗った点から、私は違うと思いますね。
そして、見事なドラムソロを展開するニーマンのドラムのシンバルが崩れそうになったのを直すフレッチャーが描かれ、最高の音楽という共通の理想を経て指導者・教え子としてシンクロしていく2人が最後の締めの前に向き合います。
フレッチャーの鼻から上だけが描かれて、その後にニーマンがにっこり笑って、終焉にふさわしいフィニッシュを迎え、シンバルを叩いてブラックアウト。なんて綺麗なんでしょう。
恐らく2人が向かい合った時にフレッチャーがニーマンに言ったのは「Good job」でしょう。
ニーマンはフレッチャーに認められた(勝った)という感覚とこの状況であえて皮肉の様に「Good job」と言うフレッチャーの台詞が可笑しくて笑みがこぼれたんじゃないかと思います。
このラスト9分19秒に描かれた凄まじいドラムソロ、ニーマンとフレッチャーの気持ちの高揚・狂気・信頼、そんなモノが一気に押し寄せてくるのが私たちの気持ちを落ち着かなくさせる要因なのでしょう。